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【ベイエリアの歴史47】1992年、静かなる時代転換(ただしイケメンに限る)

2008年にオバマが流れを断ち切るまで、共和党のブッシュ王朝、民主党のクリントン王朝が交代で大統領になるのかもねー、といった話がありました

その王朝創始者である(?)クリントン夫が大統領選挙に勝ったのは1992年のことでした。その頃私はニューヨークに住んでいましたが、正直いってその時の自分の感想をよく覚えていません。2000年に子ブッシュがゴアに勝ったときは「えー、なんかやだなー」と思った記憶があるのですが、前に書いたように80年代は「共和党でいいんじゃね」と漠然と思っていたし、92年当時それほど共和党がキライではなかったので、どっちでもいいやー、ぐらいだったのかな、と思い返しています。

しかし、これまた前に書いたように、カリフォルニアがガチガチの共和党支持から民主党支持にあっさり鞍替えしたのが1992年で、その後は一度も共和党に戻ることなく、ずーっと民主党が勝っているガチガチのブルーステートになりました。

今ウィキペディアでこのときの経緯を読んでも、現職の強みを吹っ飛ばすほどの、巨大州カリフォルニアの大転換をもたらすほどの、大きな落ち度が父ブッシュにあったようには見えません。一方で、ビル・クリントンは選挙戦の間から女性スキャンダルが出たりして、ヒーコラ言いながら当選にこぎつけたように読めます。

ただ、ブッシュの言っていることが「なんとなくズレている」感じがしたことは覚えています。それは、やはり1989年の「ベルリンの壁崩壊」が原因でしょう。選挙戦中、ブッシュは「外交戦略」の実績を強調していました。実際に、レーガンのときからずっと言ってきた「ソ連打倒、社会主義打倒」を彼のときに成し遂げたワケです。これに対し、クリントンは「格差社会是正」などの国内問題を取り上げていました。

マルクス・レーニン主義も「資本家打倒」的な思想なわけですが、「ナニナニ打倒」というスローガンは長期的にはあまりよくない、と改めて思います。打倒が実現した瞬間に終わりになってしまうからです。共和党も、「ソ連打倒」が終わってしまっておしまい、でした。

当時のビル・クリントンとアル・ゴアの写真を並べると、まぁ、ぶっちゃけ、父ブッシュよりずっと若くて、イケメンであります。長身・イケメンが選挙に勝つことが多い、というのはよく言われることで(もちろん例外もあり、ゴアも子ブッシュに負けました)、オバマも「イケメン」点が加点されたという側面もあります。そして今年の大統領選が「嫌われ者同志の戦い」と言われるのは、実は「どっちもイケメンではないから」がホンネだと思ったりいたします。

とにかく、ベルリンの壁も、クリントン政権の誕生も、なぜか当時の私にはそれほど劇的な記憶として残っていません。ベルリンの壁も「へぇー、そんなことほんとにできるんだ、でもまたこの人達は、プラハの春みたいに弾圧されて、もとに戻っちゃうのではないのかな・・」と思っているうちに、いつの間にか戻らなくなりました。

そしてその後、90年代の間に、共和党の言うことが(私にすればどうでもいいような)ライフスタイル保守に偏っていき、どんどん共和党のイメージが悪くなってしまいました。

本当に大きなコトは、庶民から見れば遠い世界の出来事のようなことで、それがだんだん積み重なり、静かにいつの間にか変わっていくのかもしれません。

「死ぬ気」でやってるヒラリーと普通のオバサンの役割

単なる感想の回です。昨日の大統領ディベートを見終わって、いろいろ考えました。

ヒラリー・クリントンは「健康不安」と言われていますが、実際に病気を持っているいないにかかわらず、68歳です。(トランプはもっと年寄りですが。)私よりも一回りも上です。私はヒラリーに比べればずっと楽ちんな仕事ですが、それでも更年期の時期を過ぎて、がくっと体力が落ちました。同年代の多くの女性よりは体力的に恵まれていると思うし、ずっとスポーツをやってきているし、まさか私が・・と思っていたのに、最近は骨粗鬆症の一歩手前で足の甲を骨折したり、ムリをして疲労のあまり階段から落ちて数週間寝たきりになったりしています。

どんなに健康に気をつけ、いろんなことをヘルプする人が周囲にいたとしても、あんなに厳しい選挙戦を戦っているヒラリーは体力的にはとてもシンドいのではないかと思ってしまいます。今後、アメリカの大統領は世界一の激務で、どの大統領も任期中にボロボロに老化します。本当に、ヒラリーは「死んでも仕方ない」という覚悟でやっているような気がします。

ずっと法律と政治の世界で努力を重ねてきて、子供を育て、たぶんその間はいろんなことを諦めながら、チャンスを伺い、選挙に出て一度は失敗し、さらに巻き返し、そしてようやく巡ってきた最大のチャンスです。彼女自身のメリットは、いまさらお金のためや名誉のためではないでしょう。選挙に出たり、実際に大統領になれば、黙って静かにしていれば決して起こらないいろんなバッシングにさらされます。それでも、やろうという根性は、ある意味では「野心」なのでしょうけれど、いろんなモノを背負って、たとえ死んでも今やらねばならない、という使命感があるのではないかと。(そして、思いつきのぽっと出のトランプごときにこんな目に合わされるのは本当に理不尽と思っていることでしょう。)自分と比べて、ついそんなことを思ってしまいました。

私はといえば、別に何事も成し遂げていないただのオバサンです。昔は、スーパーウーマンに少しでも近づこうと努力しました。それで多少は前進できましたが、まぁせいぜいこんなところです。それでも、56歳のこのトシまで、子供にも恵まれながら、ずっと仕事をして経験を積み重ねてくることができました。私よりも年上のワーキング・ウーマンは、少なくとも身の回りにあまり多くありません。かつて、このトシで働いている方はごく少数の「スーパーウーマン」でした。超絶的な才能や運や体力に恵まれていたり、お金持ちで家庭の管理を人に任せることができたり、子供をもたなかったり。そうではなく、自分で家事も育児もやるミドルクラスの普通の女性が、このトシまで仕事して経験を積む、という例は、日本でもアメリカでも、過去にはあまり多くないと思います。私達が、第一世代ぐらいかもしれません。

歴史に残る業績はヒラリーにまかせて、私は普通のオバサンとして、何かあったとしてもどうせ大したことない「最後の業績」を無理して追い求めるよりも、この後に続く世代の女性たちが「死ぬ思い」をしなくても普通にコツコツと仕事を続けていくモデルになるほうがいいのかもしれない、と思うようになっています。もう階段から落ちないよう、慢性病にもならないよう、あまりムリをせずひどいボロボロにならない程度に、コツコツとやっていこうかと思います。

オリンピックの「オンデマンド放映」とは何か

オリンピックというのは、きわめて多くの種目のスポーツが同時並行して競われ、きわめて多くの国が参加して、きわめて多くの視聴者が世界中にいる、という、究極のビッグデータ的イベントです。

周波数と一日24時間という大きな制約がある地上波テレビでは、その中からごく一部分しか抜き出すことができません。また、地上波テレビは多くの場合(日本ならNHK以外)CMでお金を稼ぎますので、CMが流れる瞬間になるべく多くの人が見ているようにしなければなりません。このため、どうしても「最大公約数的」に、その国の選手が活躍する+テレビ向けのメジャーなスポーツを選んで放映します。

アメリカは1970年代頃からケーブルテレビが普及しだして、何度かの政策的な後押しを経て、現在では全家庭の85%程度が、ケーブルまたはその競合の有料テレビを契約するに至っています。ケーブルでは周波数の制約がないので、きわめて多数のチャンネルを設定することができます。スポーツは地上波・ケーブルのキラーコンテンツでもあり、アメリカのテレビ業界ではスポーツは特別な地位にあります。アメリカでは、4大メジャー局のひとつNBCがオリンピック放映権を持っていますが、NBCは傘下にNBCSN、MSNBC、Bravo、USA、Telemundoなどのケーブル・チャンネルがあり、これらのケーブルチャンネルでも放映しています。それでも、放映される中身はやはりテレビ局が選んで編成しています。

さらに、ネットでのオンデマンド放映もあります。この形態がいつ始まったかはよく覚えていませんが、オリンピックでいうとすでに数回はオンデマンドでやっています。最初のうちは、「オリンピック・オンデマンド・パッケージ」のような形で有料でサインアップしなければならなかったので、全く人気がありませんでしたが、2010年前後から、テレビ業界が「ユーチューブ対策」として「TV everywhere」とよばれる方式を積極的に導入し、ケーブルテレビの契約者がパスワード認証で他の端末(パソコン、スマホなど)で番組を見られるようになり、ケーブル契約のオマケとして、オリンピックのオンデマンドが見られるようになっています。

NBCはこの(1)地上波(2)ケーブル(3)オンデマンド、の3つの方式のミックスでオリンピックを放映しているわけで、それぞれの方式に一長一短があり、それぞれに合わせた中身とビジネスモデルになっています。いずれもCMとケーブル会社から受け取る配信料の組み合わせで、(1)はCMの比重が大きく、(3)は配信料が大きく、(2)はその中間となります。

ここで「ケーブルからの配信料」というのがキーとなります。ケーブル契約者(単純化するためにケーブルと呼びますが、衛星テレビなど他の有料テレビでも同様)は、月に100ドル以上の高い加入料を払っています。NBCなどの地上波チャンネルも、MSNBCなどのケーブル専門チャンネルも、加入者が払う加入料から一部をコンテンツ料金として受け取る仕組みになっています。地上波主要局とESPN・ディズニー・ディスカバリーなどといったケーブル専門の主要チャンネルは、「ベーシック・パッケージ」という基本サービスに含まれており、それ以外の例えばHBOなどのプレミアム・チャンネルは個別に契約することになります。

地上波テレビは、日本と同様アメリカでも、CM収入が下がりつつあり(それでも多いですが)、これを補うために、地上波各局は配信料を引き上げるようケーブル会社と交渉(時には決裂して、チャンネルがブラックアウトしてしまうことも)したり、ケーブル専用チャンネルを買収してチャンネル数を増やしたりしており、「オンデマンド」の展開もこの努力の一つです。オンデマンドで視聴する加入者は、ケーブル契約者であり、ユーザー名でトラックすることもできるので、その分の配信料受け取りを増やすことに加え、ユーザー・プロファイルに合わせた広告を配信(テレビと同じような番組埋め込みCM)することも可能です。(やっているかどうかわかりませんが)

オンデマンドの場合は、NBCのサイトでスポーツ種目や選手名からサイト内サーチをかけることができます。例えば「Kei Nishikori」でサーチすると、錦織の出ている試合でオンデマンド配信されている過去の動画がずらっと出てきます。そのうち見たいものをクリックすると、ケーブル会社のアカウント情報(ユーザー名とパスワード)入力を求められ、ログインなしでも初回は「お試し30分」だけ見られますが、それ以上はログインする必要があります。動画は、見慣れた試合中継のようなアナウンサーも解説者もおらず、試合の映像と場内の音声が淡々と流れるだけです。(ただ、映像は通常のスポーツ中継と全く同じで、点数をとった選手をアップにしたり、水泳では水の中からの映像がはいったりなど、画面が切り替わってわかりやすく見せるようにはしています。)

NBCのサイトは必ずしもインターフェースが使いやすいとはいえませんが、それでも「日本選手を見たい」とか、「マイナースポーツを見たい」という人にはとてもありがたい仕組みです。これだけ大量の動画を短期間に多数の視聴者が集中する環境で、認証して配信するというのはかなりの技術が必要で、つい職業病でそちらの心配をしてしまいますが、今やビッグデータ技術の進展のおかげで、このような配信方法が可能となっているわけです。アメリカでも、最初の頃はもっと見づらくて大変でしたが、技術面でもどんどん進歩しているのがわかります。

一つ、重要なポイントとしては、オンデマンド配信が始まってから、テレビの視聴者はかえって増えているということが一般に言われています。今回のリオも、(例えばロシアがドーピングでやられてその分アメリカがメダル独占状態という点もありますが)過去最高の視聴者数になると見込まれていますし、例えばアメリカン・フットボールなどでも同様の結果が出ているので、テレビ各局は積極的にオンデマンド技術に投資するようになっています。

アメリカでビジネス的にこれが成り立つのは、上記のように「ケーブル契約が高くて、配信料としてコンテンツ各社にもたくさん流すだけの原資がある」という特殊事情があります。また、2007年の「脚本家組合スト」をきっかけとして、コンテンツ会社が受け取ったコンテンツ料を、俳優・監督・脚本家から各種スタッフに至るまで、どれだけの配分をするかという仕組みも整備されているため、テレビを作る人たちも、こうしてオンデマンドからの配信料が増えると自分たちも潤うというインセンティブがあります。

私は最近の日本のオンデマンド放映事情をあまり詳しく知らないのですが、Newspicksのコメントを見る限り、まだそれほど進んでいないように見えます。その背景事情はとりあえず置いておき、日本でも今後、「CMではない加入料を誰が入り口で十分な額徴収するか(お金の入り口の多様化)」という点と、「コンテンツ配信料をどう配分するか」という点を、アメリカとは背景が違うので、日本式のやり方で整備する必要があると思っています。絶対ダメな理由がいくらでも出てくることを覚悟でいうと、私は、NHK料金徴収の仕組みを使い、NHKが子会社を作って「配信インフラ」と「料金回収」のプラットフォームになり、民放のオンデマンド配信を代行するのがいいのでは、と思ったりしています。

アメリカの場合、ケーブル料金が高いというのは継続的に批判を浴びている点ではありますが、そのおかげで、上記のように試行錯誤したり、制作方式や配信方式に先行投資したりする原資ともなっているワケです。そして、こういう大手のユーザーがあるために、アメリカではビッグデータのスタートアップがどんどん生まれてくるというエコシステムも形成されています。

日本のブロードバンドや映像配信サービスはアメリカと比べてあまりにも遅れていて、いわば「ビジネスモデルのトリクルダウンの一番トップ」にあるべき映像サービスの遅れが、日本のIT競争力をさらに弱めてしまうと懸念しています。ちょうど、東京オリンピックもあることですし、テレビ局の及び腰の元凶と言われてきた某芸能事務所も弱体化の様子を見せていることですし、ここで頑張って、日本でもテレビのオンデマンドを本格的に拡大する努力を、テレビ側の人たちがすべき、と私は考えています。

一橋大での悲しい事件、問題は3段階ある

わが母校一橋大学において、ゲイの学生が、好きだと告白した相手が当人ゲイであることをバラされたことで自殺した、という悲しい事件がありました。

私にとって一橋大は、リベラルな雰囲気の居心地の良いところで、今私が住んでいる北カリフォルニアのように、LGBTなどに対してもダイバーシティ受け入れが進んでいるように勝手な印象を持っていたので、このような事件が起きたことが信じられません。それでも、起こってしまったことは事実であり、とても悲しく思います。

この事件へのコメントを見ていると、3つの段階の話が混じっているのですが、これは分けて考えたほうがよいでしょう。

(1)LGBTそのものに対する考え方・感じ方: LGBTに対して「キモイ」という反応をするのは悲しいことですが、今の世の中ではそう思ってしまう人が大多数です。これはこれとして戦っていかなければなりませんが、長い時間のあいだにこれが浸透しているいることを考えると、「キモイ」と思った学生の反応を一概に責められないとも思いますし、この風潮を変えるには長い時間がかかるでしょう。

(2)LGBTを「ネタ扱い」する風潮: ただ、こうした個人的な反応を「LINEでバラす」という行為は、LGBTをタブー視する文化背景とは別に、それを「ネタ扱いしてもOK」という、メディアで作られた空気に押されたのではないかと思います。LGBTに対してどう思うか、感じるかは個人の自由ですので、「自分にはとても受け入れられない」と思ってもよいのですが、それを「バラす」という行為は、社会的に許されないことである、という規範を作り、これをメディアなどでも推奨するべきと思います。昔は横行していた「セクハラ」が、現在でははっきりと「許されないこと」という規範となってきたのと同じことです。別な言い方をすれば、LGBTの「ネタ扱い」も、広い意味での「セクハラ」の一つと言えると思います。一般的なセクハラよりも、「タブー視」の度合いが強いLGBTでは、同じ「告られたことをバラして嘲笑する」ということであっても、男女間で起こる場合よりもダメージが大きいことは重視すべきです。

(3)大学当局の対応、専門家の対応: もう一つは、このゲイの学生があちこちに相談していたのに、結局最悪結果となってしまったことです。大学の対応がずれていたこともそうですが、専門家にも相談していたのに・・というのが悲しいです。大学当局の理解を進め、必要に応じて事情をよく知っている専門家と連携することと同時に、専門家自身も、このようなケースへの対応でなんとかもっと効果的な方法をマジメに考える、ということも必要なのかもしれません。

卒業生として、まずは大学関係者および卒業生の皆様、特に目の前の課題として、(2)と(3)について多くの方に知っていただきたく、私のご意見として申し上げたいと思います。

【ベイエリアの歴史46】レーガンの時代から諸行無常へ

古い時代はいざしらず、少なくとも20世紀以降ぐらいのスパンで、共和党が最も強かったのは、1980年代のロナルド・レーガンの時代です。そして、レーガンがあまりに強かったせいで、彼の政策や思想が現在に至る共和党の枠組みとなり、それが時代に合わなくなって、今の共和党の混乱を引き起こしています。まさに祇園精舎の鐘の声、諸行無常・盛者必衰であります。

現在から振り返ると、1960年代というのはアメリカが強かった古き良き時代、とつい思ってしまいますが、政治的には44/45で書いたように、暗殺と謀略が相次いだ混乱の時代でした。これに続く1970年代は、本格的にアメリカ経済が斜陽に向かう時代となり、2度の石油ショックで「化石燃料ベース」の大繁栄エコシステムが崩れてインフレがひどくなりました。従来型「謀略」政治手法のニクソン(共和党)がウォーターゲート事件で失脚、その次のカーター(民主党)は、日本国の私と同じ苗字のかつての某首相のように、「素人だからクリーンぽい」ということで大統領になっちゃった人で、進行するインフレとイラン人質事件に対して右往左往するばかりでした。

そのカーターを大統領選で完膚なきまでに叩きのめして颯爽と登場したのが、ハリウッドのカウボーイ、レーガンでした。

レーガンが俳優出身というのはよく知られていますが、俳優としてはそれほど実績がなく、それよりも「俳優組合」(Screen Actors Guild, SAG)のトップとして、戦後の「赤狩り」の時代を乗り切ったことが、その後の彼の政治キャリアにつながっています。「組合」ですから、SAGも赤狩りの時代には「狩りの対象」でありました。この頃レーガンは民主党支持だったそうですが、彼はSAGから「社会主義的な思想を抜く」よう努力し、「社会主義への憎悪」が強くなって、保守派・共和党へとコンバートしました。そして例の1964年共和党大会でのバリー・ゴールドウォーター支持演説で注目され、本格的に共和党の政治家となっていきます。

その後レーガンは、我らがカリフォルニア州知事を2期勤めました。1970年代といえば、UCバークレーを中心に学生運動が最盛期の頃でした。ヒッピーや学生運動はそういうわけでサンフランシスコ/北カリフォルニアがメッカでしたが、一方で一般庶民の間では反感が強く、レーガンは州兵まで動員して運動を抑圧しました。

そして2度の予備選敗退を経て、1980年についに大統領選に勝ちます。レーガンの政治思想は「アンチ社会主義、小さな政府、州への権限委譲」であり、共和党の中でも保守派寄り、「東部エスタブリッシュメントではない、西部新興州を地盤とする、アウトサイダー的な右派」という意味で、ゴールドウォーターの進化形のようなものです。下記いろいろ考えると、突き詰めればやはり「社会主義打倒」が彼の根本思想であった、と思います。

レーガン時代は、対ソ連軍拡を強化したことに加えて、「サプライサイド経済学」政策を特徴としています。これは「供給側=企業活動を促進すると経済が成長する」ということを優先しており、それまで主流だった「需要側=ケインズ経済学=公共投資で雇用を創出して需要を作り出す」のアンチテーゼとして登場したものです。政策的には、「限界税率(今よりも収入が増えた場合にそれに伴って税率がどれだけ上がるか)を抑制すると、人々は収入を増やす努力をするのでよく働くようになる(その結果、税収の絶対額はかえって増える)=税の累進性を緩める、最高所得税率を下げる」と「企業への投資を促進するため、キャピタルゲイン税率を下げる」ということをやりました。実際にレーガン時代に経済は成長し、政府の税収も上がりましたが、減税の効果はあったとしてもわずかで、実は代替として他の税金を引き上げた分、特にFICA、すなわち給与雇用者とその雇用主が負担する税で、メディケア(低所得層向け保険)やソーシャルセキュリティ(老齢年金)に使われる分の引き上げが効いているとされています。そして、軍事費が増大する一方、低所得向けのセーフティ・ネットをどんどん削減してしまいました。それでも、お金持ちがより儲かり経済が成長すれば、末端まで恩恵が「トリクルダウン」するとされました。こうして、バーニー・サンダースが攻撃する、「金持ち優遇、庶民冷遇」の仕組みが出来上がったわけです。

その時点でこの考え方が正しいと証明された事例はなく、当時から現在に至るまでメジャーな経済学者はこの考えを支持しておらず、やはりそんなうまい話はなかったという結果になっていますが、とにかく「社会主義国がやってること」の真逆をいく仕組みであり、要するに「アンチソ連、社会主義打倒」という当時の時代の空気に合っていたから支持されたということなのかな、と思います。

さらにこの時代、「社会主義打倒、小さな政府、ビジネス優遇」という政治思想とは直接の関係がない、「ライフスタイル保守」の人々が共和党と深く結びつきます。具体的には、「保守キリスト教」「堕胎反対」「銃規制反対」といった団体です。当初南部の保守派キリスト教団体は、南部ジョージアを地盤とするカーターを支持していたけれど、あまりにカーターがダメだったので見捨てて、共和党に鞍替えしてしまった、という記述があります。また、レーガンはカリフォルニア州知事時代に条件つきで堕胎を規制緩和する州法に署名しましたが、その後の結果を見てこれを深く悔やんでプロ・ライフ(堕胎反対)に鞍替えし、また自ら全米ライフル協会(NRA)に加盟してNRAが初めて正式支持した共和党大統領候補となりました。

私がアメリカに来たのは1987年、レーガン政権の最後部分にあたります。今なら「リベラル」の雰囲気の強いスタンフォード大学でも、当時ビジネススクールではやはり「ビジネス優遇」の共和党支持の人が多かったように思います。私自身も、アメリカ市民ではないし特に政治信条はなかったですが、周りに影響されて漠然と「共和党でいいんじゃね」と思っていました。諸行無常であります。

<写真>ロナルド・レーガン By This media is available in the holdings of the National Archives and Records Administration, cataloged under the ARC Identifier (National Archives Identifier) 198600.This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information.

<出典>Wikipedia

 

みんなでお手々つないで貧乏になった「非格差社会日本」

さて、前回の「格差社会」の続きの話です。

よく取り沙汰されるこの「トップ1%が超金持ちになっている」というアメリカのグラフに相当するものが日本でもないかと調べてみたところ、区切り方が違うのですが、上位20%と下位20%の所得水準推移というグラフが出てきました。(研究者本川裕さんという方のサイトから引用しました。政府の家計調査をもとにした個人の研究のようで、ソースの数字検証まではしていませんが、長期にわたって研究されていることや説明がきちんとされていることなどから、信用に足ると判断しました。)

これによると、上位も下位も、仲良く一緒に所得が下がっている(そして、最近ではむしろ格差が縮小している)ということがわかります。その理由として、作成者の本川氏は、「景気循環と所得のビヘイビア」と「年齢層の推移」の2つを主な要因として挙げています。前者は、2000年以降の長期停滞期に、高所得層の所得低下が起こった一方で、低所得層ではそれ以上は下げられないから停滞という現象です。ただし、ソースに単身世帯が含まれていないので、ニート・フリーターや独居老人が除外されており、これらも含めれば多少異なる数字となるかもしれません。

一方、後者のほうが、日本における年齢層と所得の相関関係を要因としているので、話としては面白いです。年功序列の中では、一般に高年齢層のほうが所得が高くなります。この図でいえば90年代の格差拡大時に、高所得層は50歳代が一番多い比率を占めていました。しかし、2000年代以降は、高所得層に占める50歳代が減少する傾向にあるそうです。年功といっても、60歳代以上は年金生活者が増えるので、より低い所得層に移行する人が多くなります。つまり、2000年代なかば以降の格差縮小は、本来なら年功序列で給与が最大になるはずだった50台の人たちがそんなに貰えなくなっている、年功序列が崩壊している、ということを表しています。

一方、「格差社会」のアメリカではどうかというと、オバマ政権の間、前回お話した「所得上位者」のほうは手をつけず、もっぱら「最低層の底上げ」に注力していた、というのが私の印象です。リーマン・ショックで傷ついた金融セクターを「救済する」ということでいろいろ批判があり、もうひとつの金持ち製造装置であるシリコンバレーについては、ITを使っていろいろな課題を解決しようという方向(例えば、電子カルテ化や電力スマートメーター導入のための補助金、ロボット研究開発のための大学への拠出金など)で間接的に支援しました。最低賃金は、連邦の最低賃金は変わっていませんが、主要な州で2014年に広範な引き上げが行われ、シアトルは先頭を切って時給15ドルに向けての段階的な引き上げが始まっています。

これに対し、バーニー・サンダースが強力に主張し、選挙戦で粘ってついに今週の民主党大会での綱領とヒラリーの政策に入れさせたのが、「金持ち」対策です。「お金持ちになる」のはいいけれど、いったん金持ちになったら、「フェア」な税金を払ってね、ということです。(さすがに「お金持ちになっちゃいけない」と足を引っ張ると、イノベーションと産業成長を阻害する、極めてアンチ・アメリカンなことですので。)他にも、公立大学の無料化や金融セクターの規制強化など、直接お金持ちからお金を奪うわけではないけれど、現在お金持ちでないより広い範囲の人にチャンスを与えようという政策を掲げています。

今週木曜日の民主党大会の最終日、ヒラリー・クリントンの指名受諾演説では、これらの政策を取り入れることを明言、特に「お金持ちにフェアな負担を」という点を強調していたのが印象的でした。ヒラリーが大統領になったら、いよいよ「キャピタルゲイン税の引き上げ」ということになるかもしれません。

<出典> 社会実情データ図録(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/)<写真>民主党大会でのクリントン指名受諾演説、Getty Images>

 

【The Signal #16】ソフトバンク、および日本のモノづくりベンチャー

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ご存知のとおり、ソフトバンクがARM買収を発表しました。この件についてコメントをよく求められるため、少々まとめてみます。

特にここがアメリカ人の通信業界人にとっては理解しづらい点だと思いますが、ソフトバンクは「通信キャリアを保有している投資会社」であって、「通信キャリアが投資をしている」のではありません。ですから、ソフトバンクとダイレクトに比較できる米国のキャリアは存在しません。ベライゾンがヤフーを買収しようとしているのとは、全く意味が異なります。そして、スプリントはソフトバンクの傘下にありますが、ソフトバンクと同じではありません。

ソフトバンクの投資家向け資料にある図は、この構造をわかりやすく表現しています。ここでは、プラットフォーム事業(「Operating Assets」)と破壊的事業(「Investment Assets」)にはっきりと分類しています。これは、まさに「ポートフォリオ・マネージャー」の視点です。



BCGの有名な「成長のマトリックス」でいえば、プラットフォーム事業(ソフトバンク・モバイルなど)は「キャッシュカウ」であり、そこで得たお金を破壊的事業という「スター、またはクエスチョンマーク」に投資し、当たり外れは大きいが当たれば(アリババのように)大儲けという仕組みですね。

では、ARMはどれに当たるでしょうか。売上が年率15%成長しており、健全なマージンがあり、そのままで「キャッシュカウ」としてしっかり稼いでくれそうです。また、ARMは非常に広範囲にわたる多数の顧客を持っており、既存のソフトバンクの事業と縦統合したり、ソフトバンク本体のために将来のプロダクト・ロードマップを変えるといったことをすれば、むしろ邪魔をすることになりそうです。このため、我々としては、ソフトバンクはARMを独立事業としてそのまま運営させるだろうと考えています。

ちなみに、スプリントはすでに大幅なテコ入れもなく「成り行きに任せる」経営のように見えますが、ターンアラウンドして高くして売ろうというつもりでなく、「キャッシュカウ」と思えばなるほど理解できます。しかし、無線通信キャリアには、必ず10年に一度「死の谷」が巡ってきます。次世代無線技術に対応するインフラ/周波数にアップグレードするためのまとまった設備投資の時期のことで、スプリントは「5Gに至る死の谷の時期」、2020年の少し前あたりが勝負になってくると思われます。

ところで、7月22日には、ジャパン・ソサエティとスタンフォード大アジア技術経営センターの共催による「Japan-US Innovation Awards」イベントが開催されました。ドロップボックスとメルカリが受賞したほか、いくつかの日本の技術ベンチャーも展示を行いました。ほとんどの出展者がなんらかの「モノづくり」に関わっているのが印象的でした。

海部

Friends,

So, like, SoftBank is buying ARM.  We’ve gotten a fair bit of questions about this and so will comment here.  

First and foremost, it can be helpful to think of SoftBank as an investment company that owns a telco, rather than a telco that makes investments.  This is a key point of differentiation. There is no carrier in the US market that allows for an apples-to-apples comparison with SoftBank. T-Mobile has similar spectrum; Verizon has bought AOL and Yahoo and Millennial Media; but SoftBank is SoftBank.  Sprint, while owned by SoftBank, is not like SoftBank.

SoftBank, in its guidance to investors on the acquisition (go here, accept the disclaimer, then read this deck), provides a deck that is worth reading. It clearly differentiates between its platform businesses (“operating assets”) and disruptive businesses (“investment assets”), as shown in the graphic here. Getting back to our point above, this is a portfolio manager perspective on businesses.

BCG’s 2x2 matrix (growth share matrix) on businesses, which segments businesses into cash cows, stars, question marks, and dogs, is another way to look at these.  Platform businesses (cash cows): businesses that provide cash flow and are distribution platforms (read: SoftBank Mobile); and disruptive businesses (stars or question marks) are businesses with prospective exponential growth (read: Alibaba).  As you might guess, disruptive, high growth businesses can turn into operational assets, and Yahoo Japan is an example of that within SoftBank’s portfolio.

So which is ARM?   ARM’s revenue (about $1.5B in 2015, with operating profit of $500M) grew 15% YoY in 2014 and 2015. Healthy growth and margin that could produce “yield” for other businesses.  (And certainly more yield than cash would get in Japan.)  

ARM also serves a vast and diverse set of customers.  Thus, vertical integration into SoftBank’s businesses, or altering its roadmap to favor SoftBank projects, could be counterproductive for the ARM business as a whole. Thus, it’s our view that SoftBank will support ARM’s operations as an independent company.

In other news, on Friday July 22 we attended the Japan-US Innovation Awards, presented by the Japan Society and Stanford’s Asia Technology Management Center.  In addition to award recipients Dropbox and Mercari, the event featured anexcellent group of showcase companies visiting from Japan: Spiber (photo of prototype jacket for North Face), which makes spider-inspired biomaterials; Axelspace, which makes micro-satellites; Preferred Networks, which applies deep learning techniques in fields like robotics and automotive; Xenoma, makers of e-skin; and Floadia, makers of non-volatile memory.  With the exception of Preferred Networks, all were hardware startups, broadly defined, and even Preferred serves a list of industrial customers such as Fanuc and Toyota.  

Hardware is alive and well, apparently.

Onward!

- Team Blue Field

アメリカと日本の「格差社会」の類似と違い

アメリカの格差社会があまりにひどくなってきたことが、今年の大統領選大荒れの背景である、という話を以前のブログで書きました。昨日の民主党大会でバーニー・サンダースが演説をしましたが、このスピーチは彼のこれまでの主張をコンパクトにまとめて埋め込んでいるので、ご興味ある方は動画で全文視聴してみてください。

「ベイエリアの歴史41」で書いたように、サンダースの主張は、私が少し前に読んだ経済学者ジョセフ・スティグリッツの本の内容とほぼ合致しています。(ただし、サンダースは自分の経済政策アドバイザーが誰かは公表していません。)現在アメリカの格差社会がどれほどヒドイかという話はあちこちで流布していますが、では「なぜそうなったのか」という点については意外に語られていません。おそらくは、見解がいろいろあって定説になっていないのだと思いますが、とりあえずまとまったもので私が読んだのがとりあえずこの本なので、それを下敷きにして、日本と比較してみましょう。

アメリカに関していえば、(1)「所得上位の1%」の収入はどんどん増えているのに、(2)「下位90%(つまりほとんどの人)」は全く増えていない、という2つの方向で格差が拡大しています。このうち、(1)は日本にはあてはまらず、(2)のほうは日本でも似た現象である、と私は思っています。そして、どちらの動きも、「製造業からサービス業へ」という、先進国共通の大きな経済構造の動きに加えて、アメリカ特有の政策チョイスによるもの、と思います。

 

どちらもいろいろな要因が絡んでいますが、わかりやすいところで言うと、まず(1)は「リスクをとって起業したり、新しいものや海外に投資したりする人たちに大きな報酬を支払うことにより、産業を興隆させよう」という政策的な意図があり、これに伴って「キャピタルゲイン税率が、お金持ちの所得税率より圧倒的に低い」という仕組みがあります。所得税は累進制ですので、高額所得者は40%となりますが、キャピタルゲインは15%です。このため、シリコンバレーを含めた米国企業の幹部は、給料をもらうよりも株をもらうほうを好み、短期的に株が上がるような企業行動をするようになり、投資銀行は株があがるようにハイリスク・ハイリターンの行動をするようになっており、これがリーマン・ショックの引き金となりました。いわゆる「サプライサイド経済」で、企業が儲かれば従業員にもトリクルダウンするという政策が、特に70年代以降に政権をとることが多かった共和党政権下で続いたことによるもの、ということになります。そして、80年代にウォール街、90年代の「ネットバブル」の時期にシリコンバレーが、突出して金持ちになってしまいました。

(2)のほうは、やはり70年代以降、「雇用よりインフレ抑制」を重視した経済政策が続き、雇用がなかなか増えなかったこと、および法的・イメージ戦略的に、労働組合の力をそぐ方向での種々の手が打たれた結果、分配を要求するパワーバランス調整装置がなくなってしまったこと、セーフティ・ネット不在により、いったん脱落した人が仕事に戻れないこと、などを主な要因としてスティグリッツは挙げており、特に「組合」については、グローバル化により海外に職が奪われることよりも影響が大きかったとしています。

(1)に関しては、サンダースやスティグリッツが攻撃する「産業振興のためにリスクテイカーに大きな報酬を払う」という仕組みのおかげで、アメリカでは少なくとも、アップルやグーグルなどの新しい成長産業が勃興しており、シリコンバレーには大金持ちがたくさんいて、お金持ちになりたい若者が世界から集まって、破壊的なビジネスを日夜試しています。

しかし、社会階層的だけでなく地域的にもトリクルダウンが起こっていない(シリコンバレーはバブっているのに、他の地域にはその恩恵がいかない)ために、新しいサービスや製品の「お客さん」になってくれるはずの「中流階級=消費者」がどんどんいなくなってしまう、という危機感が、シリコンバレーで高まってきています。

しかし日本では逆に、「(1)が欠落しているがために困ったことになっている」と感じています。リスクテイカーへの報酬が小さく、雇用維持を重視してダメ企業でも「雇用マシーン」として生き残る政策が長く続きました。従来型の企業による終身雇用以外の有効な雇用調整装置がない(ここから脱落すると「派遣・パート」というより低い層にクラスチェンジせざるを得ない)ので、会社で働く人はリスクを避けて会社にしがみつかざるを得ず、「何かを新しくやって失敗したときに大きなペナルティをうける」と「何もしないでインセンティブもないがペナルティもない」という選択肢の間で「何もしないほうを選ぶ」という行動が蔓延しました。

その結果、アメリカほどの格差はないけれど、既存企業が活力を失い、新しい産業が興らない状態が続き、結局は倒産やリストラで職を失う人が増えました。分配しようにも、その原資が企業側になくなってしまった、ということになります。悪循環はどこかで止めなければいけないので、ここしばらくシャープ・東芝・タカタなどの問題が表面化して、企業の再編が起こっているのは、安倍政権の意向なのでは、と私はつい考えてしまいます。

・・が、本当に「原資」はないのでしょうか?アメリカでよく引き合いに出されるのが、「労働生産性はずっと上がっているのに賃金が上がっていない」というグラフですが、では日本では、と探してみると、日本のほうがずっとその傾向がひどい、というOECDの統計によるグラフが出てきます。(アメリカでよく使われる図とは、少々違いますが。)

私もまだ調べている最中で、結論というほどの確信はもてませんが、なにしろ日本はアメリカと少々違う経緯ですが、やはり(2)方向の停滞と生産性の停滞により、中流=消費者の崩壊がじわじわと進んでいるように思えます。

<追記>続きを書きました→http://www.enotechconsulting.com/blog/2016/7/30

【ベイエリアの歴史45】1968年民主党の混乱と党内南北問題

私の頭では、「共和党=右、戦争推進、白人中心、インコンベント(既存勢力)、田舎」「民主党=左、戦争反対、ダイバーシティ賛成、チャレンジャー、大都市/カリフォルニア」という構図がこびりついてしまっているのですが、歴史的に見ると、こうした要素の組み合わせは昔と比べて大きく変わっており、その地盤とする地域も大幅に組み変わっている、というのを最近知り、認識を新たにしています。

そもそも、というところまでたどると、「奴隷解放」のアブラハム・リンカーンは、北部都市部産業家を代表する共和党であり、それに対抗した伝統的南部の勢力が民主党でありました。もっと近代になってからを見ても、1933年のフランクリン・ルーズベルトから1969年のリンドン・ジョンソンまでの36年間のうち、共和党の大統領はアイゼンハワー(8年)だけしかおらず、実は民主党のほうが「インコンベント」な存在でした。カリフォルニア州も、州として成立したときに「自由州」を選択していたのですから、過去には共和党が強かったというのも言われてみればそのとおりです。

前回書いた1964年では、共和党大会が大騒ぎでしたが、次の1968年では民主党大会のほうが大荒れとなりました。現在の構図に至る両党の変容の歴史は、多くの要素と長い年月がかかっていますが、1968年はその最初の転換点に当たります。

ジョンソンは、任期中に公民権法を成立させましたが、一方ではベトナム戦争を拡大し、戦争継続を支持していました。1968年といえば、ベトナム反戦運動が激化して各地で暴動やデモが頻発し、マーティン・ルーサー・キングが暗殺された年です。ジョンソンも再選を目指しましたが、戦争政策への反対で支持率が低下し、早い段階で予備選を脱落してしまいました。その上6月には、本命と目されたロバート・ケネディまでが暗殺されてしまい、候補者選びは大混乱となりました。「主戦派」は、副大統領だったヒューバート・ハンフリーを代わりの候補として立て、一方の「反戦派」ではユージーン・マクガヴァンが有力候補となりました。

さてその予備選ですが、実は憲法でやり方が決まっているわけではなく、州が主催する投票制の「予備選(プライマリー)」をやるところと、州の党組織が主催する話し合い、つまり「コーカス」でやるところが混じっています。(予備選でも、オープンかクローズドか、など細かい違いがあり、さまざまです。)

そういうわけで、広い範囲の人からの投票だと不利と見たハンフリーは、「予備選」州を避け、党幹部の言い分が通りやすい「コーカス」だけで票を集めるという、合法だが裏の手を使って勝ち抜き、8月の民主党大会にこぎつけました。当時はそんなことができたのですね、驚きです。

党大会開催地のシカゴでは、反戦派が集まって抗議行動を行ったのに対し、シカゴ市長は警察を大量動員して厳戒を敷き、法に触れてもいないデモ参加者や、有力なジャーナリストまでも拘束したり尋問したり、デモ隊に放水したりしました。日本なら、東大安田講堂事件の頃のようなイメージの暴力沙汰が頻発し、それがテレビで全国に放映されたのです。

結局、ハンフリーがそのまま候補となりましたが、多くの党員の支持を受けみんなが納得するという「レジティマシー」が欠けたままで党が分裂。大統領本選では301対191というこれまた大差で、共和党のニクソンに敗れました。これで民主党は大きなダメージを受け、再建にはたいへんな時間がかかりました。

その後、2009年のブッシュ子までの40年間に、民主党が政権をとったのはカーターとクリントン夫の2回のみ(合計12年)で、共和党が「インコンベント」という私のイメージができあがります。

そしてもう一つ、興味深いのは、カーターはジョージア州、ビル・クリントンはアーカンソー州が地盤、つまりいずれも「南部の民主党」という、伝統的な幹部のポジションにあります。その流れでいくと、現在のオバマは、アフリカ系であることに加え、「北部の民主党」(イリノイ州が地盤)という意味でも、これまでの慣習を破っていました。

ヒラリー・クリントンは、夫が知事のときにはアーカンソー州のファーストレディでしたが、もとはシカゴ出身、大学は東部、上院議員の選挙区はニューヨークという、「北部の民主党」の色が強いように思います。そして、昨日発表された、彼女のランニングメート(副大統領候補)、ティム・ケーンは、南部のヴァージニア知事でカトリック。単に「白人男性」としてヒラリーとのバランスをとるという意味だけでなく、「南部」と「アイリッシュ=カトリック」という、民主党の中心勢力に近い人物ということもできます。オバマの副大統領であるジョー・バイデンは北部のアイリッシュ=カトリックであり、陽気な人柄で人気がありますが、ティム・ケーンはその雰囲気に近いものも持っています。現在の民主党では、「北か南か」はあまり関係ないようで、どこまで「南北」を意図したものかはわかりませんが、カーターとクリントンについてのウィキペディアの記述で、こんなことに初めて気がついて面白いと思った次第です。

(写真はヒューバート・ハンフリー)

出典:ウィキペディア

【ベイエリアの歴史44】1964年共和党大会のあったサンフランシスコ

オハイオでは共和党大会で、相変わらずお騒がせが発生しています。これの関連でよく言及されるのが1964年の共和党大会なのですが、調べてみるとこの大会、なんとサンフランシスコ(正確には市の南にあるDaly CityのCow Palaceという催事場)で開催されているとわかり、私の頭の中は???でいっぱいになりました。

カリフォルニアはガチガチのブルー・ステート(民主党支持州)なんじゃないの?と脊髄反射したわけですが、実は大統領選挙でカリフォルニアがテッパンの民主党州になったのは比較的最近、92年のクリントン夫のとき以来で、それまでは1952年から、ヒッピーの時代も含めてずっと、ブッシュ父まで、ほぼ一貫して共和党だったのです。ただの一度を除いては。

1964年といえば、前回書いたジャニス・ジョプリンとほぼ同時代、前年の1963年にはJFケネディが暗殺され、その前後はキューバ危機やベトナム戦争、そして公民権運動という騒然とした時代でありました。ベイエリアでは、ショックレー・トランジスタは1955年にできて、半導体産業が芽生えてはいましたが、基本的にはまだ農業と軍需が主要産業でありました。

当時の共和党(今でもある程度そうですが)は、「東部エスタブリッシュメント」である幹部が指名した毛並みの良い人がすんなり候補者となるのが普通で、その年も、ご存知大富豪家出身でニューヨーク州知事だったネルソン・ロックフェラーが幹部ご推薦でした。しかし、予備選でダークホースのアリゾナ州選出上院議員、バリー・ゴールドウォーターが忽然と登場して、ロックフェラーを蹴散らしてしまいます。代わりに、終盤になってから、ペンシルバニアの大地主家出身のビル・スクラントンを引っ張りだしましたが、得票数では及びません。

東部エスタブリッシュメント幹部は穏健派で、公民権法にも理解を見せ、対共産圏の対応も現実的でしたが、当時急成長していたカリフォルニアや西南部新興州の庶民は、「ソ連をつぶせ」「公民権法をつぶせ」と極論をぶつ、軍人出身のタカ派であるゴールドウォーターに大喝采を送って支持したのでした。第二次世界大戦から朝鮮戦争・ベトナム戦争と、アメリカにとっては太平洋側がずっと「前線」であり、19世紀の中国人排斥などに見られるように、当時のカリフォルニアでは人種差別意識が激しく、今とはずいぶん違う気分が支配していました。

そんなサンフランシスコで開かれた共和党大会では、幹部がなんとかゴールドウォーターを引きずり降ろそうとあの手この手の謀略を展開したといいます。それまでの伝統的手段は、文字メディアにスキャンダルをリークしたり、女を使ってスタッフをはめたり、種々の脅しをかけたりなどで、それに加えて当時はテレビが本格的に普及し始めた時期で、「テレビでゴールドウォーターに喋らせれば、あまりに過激な言動に党員が驚いて支持をとりさげるだろう」と、テレビを積極的に入れました。しかしこれがまた逆効果。ゴールドウォーターの選挙本部(市内マークホプキンス・ホテル)には怒れる支持者が押しかけて騒ぎ、後に伝記作者が「右翼のウッドストック」と記しています。

結局阻止工作は不発に終わり、ゴールドウォーターが正式に共和党の大統領候補となりました。しかし、11月の本選挙において、あまりに過激なゴールドウォーターは、歴史的大地滑り敗北を喫しました。ゴールドウォーターが勝ったのは、地元のアリゾナの他、公民権法反対の強かった深南部5州のみ。カリフォルニアで共和党の連勝がただ一度途切れたのが、この年だったのです。選挙人数では、民主党のリンドン・ジョンソン486票に対し、ゴールドウォーターはわずか52票でした。

・・という具合に、予備選から共和党大会にかけての経緯はなにやら今年の状況となんだかよく似ているため、このままトランプが候補になったら、ゴールドウォーターと同じことになってしまうのでは、と共和党幹部は恐れおののいているのだと思います。昨日のメラニア・トランプの演説が、2008年のミシェル・オバマをあちこちパクっていると大炎上していますが、これを見て「共和党幹部が仕組んだ罠(メラニアのスピーチライターが刺客だった!?)に違いない」と私がつい思ってしまったのも、「ハウス・オブ・カード」の見過ぎだけでなく、こんな1964年の話を読んだせいかもしれません。

(写真はバリー・ゴールドウォーター)

出典:Wikipedia, Smithsonian