【CES2】 顔認証大国、中国のゆくえ

CESの関連で、中国の話が続きます。

今日、アメリカで「顔認証」技術に対する懸念が高まっているという話を、瀧口範子さんがNewspicksに書き、たくさんのピックを集めています。

この話はもちろんそのとおりで、既存のAIの仕組みでは、これまでに集まっているデータをもとにしてパターンを見つけ出し、それと照合するので、「これまでに集まっているデータ」が勝負を決めます。データそのものがもともと偏っていると、この記事にあるように、正しい解析ができません。

もう一つ、「データの量が多いほうが勝ち」という現実もあります。最近、シリコンバレーのAIカンファレンスに行くと、中国の躍進の話が必ず出ますが、そのパワーの源泉が「データの量」です。

現在AI分野における最前線は深層学習(Deep Learning/DL)で、例えば自動運転技術での障害物の認知の際の画像解析に使われるので、たくさん投資が集まっています。そして、もう一つの大きな画像解析の使い道が「監視カメラ」であります。上記の記事のように、先進国ではいろいろと「懸念」されてしまうので静かにやっていますが、中国では政府が大々的にやり、それに対して誰も懸念表明ができません。それで・・・

大手情報会社IHS MarkitのアナリストJon Cropley氏によると、中国は全世界の監視カメラ市場のうち46%を、データ分析するディープラーニング用サーバーの4分の3を占めているとのこと。

-engadget日本版 2018/1/20

・・・ということになっています。CESでも、中国の顔認証技術ベンチャーや、中国公安当局向けのスマートメガネのベンチャーなど、「中国の顔認証・画像AI」関連のものがたくさん出展しています。

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アメリカや日本の感覚で「え・・これは・・」と思ってしまうものでも、中国ではアリです。ただでさえ、中国は政府を挙げてAI研究に力を入れ、需要があるので大量のAI技術者が生まれ、そのレベルもどんどん上がっていると聞きます。そんな中で、顔画像も文句をつけられることなく膨大に集まっていく中国が、少なくとも顔認証で世界のトップになる日も遠くないと思えます。

だからどうすればいいのか、私は回答を持っていないのですが、「中国のソフト/AI技術が世界トップになる」日に、世界はどうなっていくのか、さっぱりわからないのが不安です。

・・・ということで、SVOIによるCESベンチャー探索企画のご案内はこちらです。

【CES1】中国自動車に関する雑感

今年は珍しく、すでにCESの準備を始めています。(理由はのちほど。)毎年、CESでは中国企業の存在が大きくなっているわけですが、どう考えてもアメリカで本気で売る気がないと見える出展企業が多く、「これは、出展を理由にすればビザが取れるとか、補助金をせしめるとか、そういった中国的な事情なんだろうな・・」と思っておりました。またシリコンバレーで一般的に中国ベンチャーや中国資金の動きは、やはりアメリカや海外市場ではなく、中国市場だけをターゲットにしたものに向かう傾向が強く、「新手のガラパゴス」に見えます。

ですので、世間的に流布する「中国スゴイ論」と「中国たいしたことない論」の間でどう見るべきなのか、自分としてはいまひとつ理解できずにおります。

そんな中で、相変わらず2019年のCESでも中国企業の出展は多く、最近の中心話題である「自動車」界隈でも、中国のEVメーカーが多く出展します。

中国系EVメーカーといえば、2016年のCESで派手にデビューしたFaraday Futureを思い出す方も多いでしょう。本社と工場はロサンゼルス郊外ですが、創業者も資金源も中国系という「アメリカの皮をかぶった中国系」メーカー。その後、製造を始めたとの発表と、しかし資金難や投資家とのトラブルで風前の灯状態、などと迷走していましたが、最近新規資金を調達したとの情報もあります。

 Faraday Future FF91

Faraday Future FF91

現在のところ、中国製自動車の米国への輸入はほとんどなく(欧米メーカーの中国製造のものがわずかに入っている程度)、アメリカから見ると、中国の自動車といえば「あやしい」と思えてしまいます。

しかし、中国の自動車市場は2017年で2900万台(販売および製造がほぼ同数)、アメリカの1.7倍なのだそうです。ちなみに日本は2017年で523万台で、桁が一つ違います。中国の国内自動車メーカーは、ウィキペディアで確認できるだけで数十社あります。中国政府は、輸入制限はもちろんのこと、日米欧の既存メーカーとガチンコ勝負にならないEVには、メーカーにもユーザーにも補助金を出しています。そして、中国は現在まさにモータリゼーションが進行中、今後もまだまだ、台数は増えるのです。

80年代の「日米貿易摩擦」真っ最中に自動車メーカーに在籍した私から見ると、あの頃の日本に似てるな、と思う部分があります。あの頃、日本車が世界に進出できたのは、日本市場がアメリカよりもやや遅れて急成長期にはいったことと、「省エネ」という技術改革が必要だったことという、ふたつの時代の追い風もあったのだなぁ、という感慨であります。

しかし日本の場合は、アメリカが「不公平だ日本市場にアメリカ車も入れろ」といったところで、市場規模がそれほどでもなかったのですが、中国の場合は自国市場が気が遠くなるほど大きいという、圧倒的なアドバンテージがあります。同じガラパゴスでも、日本と中国は質が違い、追い風もかなり色が違います。

中国国内の激烈な競争のせいか、違いを出すために米国市場に出ようというベンチャーもぼちぼち出現しており、いずれもファラデイのように「アメリカの皮」をかぶっています。一方で、最近はこうした莫大な中国市場に参入しようと、「中国の皮をかぶった欧州ベンチャー」とおぼしき例まで出現しています。

製造業では、やはり「数は力」なのだなぁ、と改めて思います。


さて、CES2019を活用した「ベンチャー探索プロジェクト」のお知らせです。CESに出展する世界のベンチャーのうち、注目すべきものを60社ほど選び出して分析し、それらの概要と「選び出す」ための手法につき、ラスベガスにて講演し、展示会終了後にまとめレポートを作成して解説セミナーを東京で実施します。

このプロジェクトは、シリコンバレーで日本企業をサポートするコンサルタントのコンソーシアムSilicon Valley Open Innovation(SVOI)にて提供しており、CESでは村瀬功、渡辺千賀、と私(海部美知)の3人でお送りします。

プランは下記のようになります。

1)ラスベガスでの講演(1/7)より前にお申し込みをいただき、事前講演・事後講演と最終レポートまでご提供する「フルバージョン早割り」:一人$2000(複数出席の場合は割引あり、出席できない場合でもビデオにて講演の様子を提供します)

2)ラスベガスでの講演より後にレポートとビデオを購入する「フルバージョン割引なし」:価格未定ですが、「早割り」よりもかなり高くなります。

3)事前に簡単なリストだけをお渡しし、ラスベガスでの講演を1/8に行う「簡易バージョン」:JTBと提携してご提供するもの、一人55,000円(ツアー参加者は割引あり)

同様の探索プロジェクトを10月のフィンテック展示会で実施しましたが、こちらもご好評をいただいております。(こちらも「フルバージョン」レポートのご購入が可能です。)

詳細資料とお申し込みは、こちらのウェブサイトへどうぞ→SVOI

【ナンデモ歴史59】海部元首相と徳島の海部一族

私の苗字は珍しいので、初対面の方によく「海部元首相とはご親戚ですか?」と聞かれます。いつも、「700年ぐらい昔は親戚だったと思います」と半分本気、半分ジョークで答えています。

さて、先日時事通信の会員向けセミナーとういことで、ロサンゼルスで講演をする機会がありました。そこで、3度ビックリの案件がありました。

(1)親戚以外で初めて、「海部さん」という方にお会いした。
(2)その方(海部優子さん)は「元首相のご子息の奥様」だった。(ご子息がLAに住んでいることは知っていた。優子さんはLAで日本文化を紹介するジャパンハウスの館長をされている、ステキな女性。)
(3)海部元首相家は愛知出身なのだが、優子さんが「徳島に海部町というのがあって、そこが長宗我部に攻められて・・」というお話を始められて(そうそう・・え?・・それウチの先祖の話?なんで知ってる?)と頭が混乱、「で、船で逃げ出して愛知に移ったのが夫の先祖なんです」と仰るので「えー!やっぱ先祖はどうやら同じですね!」という話になった。

私の先祖といっても、ある程度たどれるのは曽祖父の一代前ぐらいまでですが、とにかく幕末には徳島の蜂須賀家に仕える武士だったというのはわかっています。県の南端近くの海沿いにある海部町(平成の大合併で今は海陽町になった)ではなく、徳島市内に住んでいたようです。

その代だかさらにその前だかが、なにやらトラブルに巻き込まれ、水牢に入れられただか冷たい土間に土下座し続けただかして、歩けなくなってしまったそうで、それを見た曽祖父(海部忠蔵)は身分制度に反発し、明治初期にキリスト教に改宗しました。そして故郷を出て東京に移り、普連土学園の初代校長になりました。

その息子である私の祖父は、偏屈な三男で親戚づきあいもほとんどしなかったため、私はそのあたりの親戚のことはよく知りません。その後はごく普通で、祖父は教師、父はサラリーマンです。(一人だけ、父のいとこを知っているのみ)

とにかく徳島にいたので、海部町に拠った海部一族がきっと私の先祖だろうと思っているだけで、ここははっきりしているワケではありません。

ウィキペディアによると、海部町にいた海部友光が、永禄年間(1558-70年)に海部城を築いたのですが、あるとき嵐で船が逃げ込んできたのを海部勢が襲い、そのとき船に乗っていた長宗我部元親の弟を殺してしまったため、怒った元親が攻め込んできた、ということです。1577年のことです。

海部俊樹元首相の家はそういうわけで、愛知に逃げた一族の末裔ということですが、ではわが祖先は、果たしてそのときに徳島に残ったのか、それとも後に愛知から蜂須賀にくっついて徳島に舞い戻ったのか、というのは不明です。蜂須賀はもともと織田信長の家来だったので、愛知出身ですよね。その後国替えで徳島に行きましたので、そのとき「現地の事情をよく知る海部をコンサルタントに雇おう」といって連れていったのかもしれません。(うーん、なんというDNA)

いずれにしても、400~450年ほど昔の戦国時代から桃山時代あたりにかけて、元首相家とウチの先祖は分岐した、ということのような気がします。

「まぁ、なにしろ弱そうですよね」というのが、優子さんと私の共通の見解です。元首相家の一族は学者の方が多いようで、例えばノーベル賞受賞者の小林誠さんは海部俊樹さんの従兄弟です。我が家のほうはその傾向は曽祖父あたりまでですが・・

ちなみにフェイスブックからのタレコミで、京都の日本海側、丹後半島にある元伊勢龍神社というふるい神社には、現存する日本最古の家系図とされる「海部(あまべ)氏系図」という国宝があると教えていただきました。ここの宮司の家だったようです。これは平安初期のもので、ここまでいくと単なるファンタジーで、へー面白いなー、というだけの話です。

日本がかつての「コスタ・デル・ソル」になっている件について

同年代ぐらいの方々は、かつて日本がバブルだった頃、物価の高い日本を脱出して、老後は海外に移住しようという日本政府の「シルバーコロンビア計画」をご記憶でしょう。今あらためて調べてみると、1986年のことでした。

スペインのコスタ・デル・ソルが、「日本人リタイアメント・コミュニテイ」をつくる脱出先として想定されていましたね。昔々のお話です。こんなところです。きれいなところですねー!

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たまたま、日本で数年を過ごし、最近アメリカに戻ってきたアメリカ人の友人と話していて、ふとこの件を思い出しました。彼は「東京はよかった、サンフランシスコは臭いし汚いし高いし危険だし、あっちに戻りたい」と盛んにこぼしておりました。(こちらに戻るやむをえない事情がありました)

東京が清潔で安全という話は言い慣らされていますが、「物価が安い」という点について、私も体感として、例えば「食べ物は異常においしいのに安い」とぼんやりとは思っていましたが、もともとアメリカで育った彼でさえそう思うのか、ということに少しショックを受けました。

彼は、東京23区内で、駅からは少し遠い、閑静な住宅街に一軒家を借りていました。曰く、「今、サンフランシスコに帰ってきて住む家より、東京の家のほうが広いのに安かった」のだそうです。

スペインは、かつて栄華を誇った国ですが、今は国力が衰えているので、「インフラはそこそこ整い、風光明媚だが、人件費が安くて物価が安い」という特徴がありました。あ・・あれ?これって日本?いや、ホント、そうなんです。

特にベテラン世代の間では、まだまだ日本はモノが高い、ブランド物は海外で安く買う、みたいなイメージがあると思いますが、もうそうではないのです。特にサンフランシスコは、アメリカでも群を抜いて地価が高いので特に対比が歴然としています。(もちろん、アメリカでも仕事もないような田舎はまだまだ地価は安いです)

私も、そういうわけで老後は日本に移住したいものです。コスタ・デル・ソルほど天気はよくなくて、夏に蚊が多いのが難点ですが、それでもこれまで貯めたドルを握りしめていけば、温泉にはいったり、歌舞伎を見に行ったり、神社仏閣巡りをしたり、できるんじゃないかと。

そして日本にはさらに老人が増えるという・・・

【ナンデモ歴史58】騎士物語は中世版「しまじろう」だった

中世ヨーロッパのマイブームが続いています。

私は英語の本を読むのが苦手なので、この歴史の勉強はもっぱらオーディオブックで、欧米の大学の先生の講義を聴いています。面白い話がたくさんあるのですが、本日はその一つをば。

ヨーロッパ中世の歴史は、日本の高校世界史でもあまり詳しくやった覚えがありませんが、その一つの原因として、「そもそも資料が少なくてよくわからない」ということがあります。

ローマ時代は、戦争やった張本人ががっつり書き残した「ガリア戦記」など、文献がたくさんあるのですが、中世ヨーロッパにはこの種の一次文献があまりありません。当時は書き言葉はラテン語しかなく、そのラテン語と地元の俗語が混じってできた話し言葉のフランス語やスペイン語などは書けませんでした。そして、その書き言葉であるラテン語が読み書きできたのは、聖職者だけでした。つまり、聖職者以外はみんな「文盲」だったので、そもそも文献というもの自体がほとんどないのです。

さて、前回の「奴隷貿易」の話でも書いたように、中世ヨーロッパというのはたいへんに暴力的な世界でした。ローマ帝国という「組織」の仕組みが崩れ、その後を支配したゲルマン民族には「組織」として国家を運営するノウハウがなく、個人が力で獲得した領土は個人の資産として息子たちに分割継承させるしきたりであったため、分裂と内乱が続きました。

組織としての国家が機能していない状態で、もともとは戦士であった領主が力で領土を支配しているのですから、法律も裁判も警察もへったくれもありません。領主達は、要するに戦いで強い騎士であったので、血の気が多く、自分の利益のために、お隣に攻め込むのはもちろん、気が向けば家来や領民を収奪したり殺したり家を焼いたりしていました。臣下の騎士たちもそれぞれに拝領地をもつ領主でしたので、上から下まで「貴族の暴力」が蔓延していました。

自前の武力を持たない聖職者たちも、その被害を受ける側であったので、困り果てて、「日曜日は家を焼かない」「武力をもたない女性や子供を殺さない」などのような「神さまの行動指針」を作り、これに従わなければ地獄に落ちるぞ、と領主=騎士たちを脅してなんとか制御しようとしましたが、まったく効果がありません。一つには、なにせ聖職者ですから、このルールをラテン語でお役所的な堅い文語で書いたため、文盲の騎士たちには全く理解されないというか、そもそも誰も読まない、ということがありました。

そこで一計を案じ、このルールを「ヒーロー物語」仕立にすることにしました。「勇敢でかっこいい騎士が、ドラゴンをやっつけて、美しいお姫様を守り、恋に落ちる」などの血湧き肉躍る物語を、ラテン語でなく俗語で作り、これを口述によるパフォーマンスで広めることにしたのです。「農民の家を焼いてはいけない」という退屈な禁止令は誰も読まないけれど、「かっこいい騎士は農民を助け、そうすると美しいお姫様を恋人にでき、みんなに尊敬される」という講談なら、騎士は熱狂して聴くわけです。これが大成功して、騎士物語は大流行に至り、この流れで「騎士道」の行動倫理が形成されました。

初期の騎士物語の代表作、「ランスロット」などを作ったクレチアン・ド・トロワは、宮廷づき聖職者でした。ここで使われた俗語はおもにフランス語やスペイン語などの「ロマンス語」であったため、こうした「恋物語」を「ロマンス」とよぶようになりました。

宗教的倫理をベースにした口述物語という意味では「平家物語」にも似ていますが、字を読めない人にヒーロー物語のパフォーマンスで行儀作法を教えこむという意味では、むしろ幼児向け教材の「しまじろう」みたいなものだなぁ、と思わず笑ってしまいました。

そして、英語読むのが苦手な私が、これをオーディオで聴いているというのもまた、文盲の騎士たちみたいなもんかなぁ(^^;)とも思ったりしています。

参考資料: The Great Courses

【記事掲載のお知らせ】Facebookとウーバーへの大手メディアの報道はなぜこれほど差があるのか

Business Insiderに、FBとウーバーの2題話を書きました。あえて、昨日公開された津山さんの記事とは別の見方で書いています。

どちらの考え方もアリです。個人的には私もそれほどFBに思い入れもなく、わりとどうでもいいと思っています。

なお、毎度のことですが、記事のタイトルは編集の方がつけるので、私の書きたかったこととは少々違いますが、仕方ありません。本当は、ウーバーの技術的問題だけをgeekyに書きたかったのでしたが、まぁいろいろあってこうなりました。

https://www.businessinsider.jp/post-164556

 Facebookとウーバーへの大手メディアの報道はなぜこれほど差があるのか

Facebookとウーバーへの大手メディアの報道はなぜこれほど差があるのか

【ナンデモ歴史57】中世ヨーロッパの「売り物」はなんだったのか

以前、「信長のマントはどこから来たか」というエントリーで、欧州の歴史における毛織物工業の重要性について書いたことがあります。(実はその後、エントリーを読んだ友人から「あのマントは毛織物でなく絹」との指摘を受けてしまいましたが。)で、そのとき、毛織物以前にヨーロッパが胡椒や絹と引き換えに東方に売る産品は何だったのか、よくわからなかったのですが、最近中世ヨーロッパの歴史がマイブームとなり、いくつかオーディオブックで歴史講義を聞くうちに、わかってきました。

それは「奴隷」であります。

以前、塩野七生の「ローマ亡き後の地中海世界」という本で、西ローマ帝国滅亡後にほぼ無政府状態となったイタリア半島が、数百年にわたってイスラム帝国からの激しい略奪にさらされたという話を読みました。そして、今回聞いているイギリス、フランス、ドイツの中世においても、9世紀頃以降、北からヴァイキングがやってきて、これまた激しい略奪にさらされます。

略奪といっても、これらはいずれも当時は貧しい国ですので、盗んでいくお宝などほとんどありません。モノではなく、人をさらって奴隷にするのです。

イスラムの場合、イスラム教徒以外は人にあらずなので、キリスト教徒は奴隷にしてOK。ヴァイキングも最初の頃は全く気にせず人身売買三昧でしたが、キリスト教会側の防衛が整うにつれ、奴隷の原産地はキリスト教の影響が弱い東欧にシフトしていきました。その東欧に住む人達は「スラヴ民族」と呼ばれますが、「スラヴ」は「奴隷(slave)」を語源とするなんて、全然知りませんでした。

ヴァイキングの場合は、自分で奴隷を使うのではありません。彼らは海運による通商をなりわいとしていたので、奴隷をイスラム帝国やビザンツ帝国に持っていって売りました。当時はイスラムやビザンツのほうが、都市文明が発達していて奴隷の需要も大きかったのです。奴隷を売ったお金で、ヴァイキングたちは武器を購入し、また略奪で奴隷を仕入れにいく、というエコシステムでした。

ローマを滅ぼした「ゲルマン民族」は、やたら強い野蛮人のように思っていましたが、そのゲルマン民族がつくった国々は、長いこときちんとした統治システムを確立できず、ローマのような組織的な軍隊で防衛するということができなかったので、こうして南北からの略奪にさらされ、住民を奪われていたのですね。そして、一応存在したけれど不安定な王朝の代わりに、キリスト教会が、軍隊ではないけれど、汎用的でもう少しマシな組織体制を提供して、なんとか住民を守っていたということのようです。中世は教会の権力がものすごく強かったことも、そう考えるととても納得がいきます。

なので、「暗黒の中世」というイメージの中で、しばしば「キリスト教会」が悪者扱いされますが、教会側は「そりゃー心外!」と言いたくなりそうです。そして、当時のヨーロッパの住民にとっては、いつさらわれて奴隷に売られるかわからない、戦々恐々として過ごす日々は、まさに「暗黒」であった、とこれまた納得がいきます。

そして、現代では立場が逆転しているため、十字軍というと「優位なキリスト教側の理不尽なイスラム教側への蹂躙」のように思ってしまいますが、上記のような悲惨な人身略奪に対するキリスト教側の窮余の末の反撃であった、と思うと、これまた納得がいきます。キリスト教国の連合軍を目指したことも、当時は個別の国の力が弱く、それらを糾合する唯一の組織が教会だったということの表れです。

「奴隷」という当時のコモディティ商品という角度で見ると、中世ヨーロッパのことが、ちょっと違う色で見えてきます。

【記事掲載のお知らせ】ゼロックス買収で「もう1頭の牛」を手にする富士フィルム

ビジネス・インサイダーに、富士フィルムとゼロックスについての考察を書きました。

ここで言っている「有能の罠」は、日本のすぐれた大企業が陥りやすい罠です。この罠から簡単に抜け出す魔法はありません。それぞれの置かれた環境で、なんとかするしかありません。

https://www.businessinsider.jp/post-161452

 ゼロックス買収で「もう1頭の牛」を手にする富士フィルム —— 斜陽産業を生かす戦略とは

ゼロックス買収で「もう1頭の牛」を手にする富士フィルム —— 斜陽産業を生かす戦略とは

【記事掲載のお知らせ】NewsPicksの2018年大予測シリーズとビジネス・インサイダー・ジャパンに寄稿いたしました。

NewsPicks スタートアップ・エコシステムの変わり目が到来か

https://newspicks.com/news/2715087/body/?ref=index

 

Business Insider Japan 「知的ブルーカラー」時代の人材教育に有効なアメリカ流短大とは

https://www.businessinsider.jp/post-108451

 

Business Insider Japan 静かに広がるシリコンバレー・バッシング —— なんちゃってIoTベンチャーの転落

https://www.businessinsider.jp/post-107858

 スタートアップ・エコシステムの変わり目が到来か

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